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15年ほどまえから、アトピー性皮膚炎の子どもたちが、ステロイド軟膏を使わずに過ごせるようにししたいと思って診療してきました。原因や悪化因子について考察せずに、ただ起きている炎症を抑えているだけの治療では本当に治ってはいっていないと感じ、患者さんの訴えや全身の状態をよく診ることをこころがけてまいりました。
夫が産婦人科をしており分娩も扱っていた関係もあると思いますが、乳児期の湿疹アトピー性皮膚炎 脂漏性湿疹などを診る機会が多かったと思います。
当院で生まれた赤ちゃんの1ヶ月検診をすべてやっておりました。そうしますと、便性に問題のある子、下痢ぎみ、便秘ぎみ、オムツかぶれの治りにくい子、カンジタ性口内炎になった子、母乳やミルクをよく吐いてしまう子(溢乳ですまされているが実は消化機能が低いのだと思います。)、放屁が多いまたは臭い子、便中に少し血液がぽつぽつ混じることがある子(一般には腸管粘膜におけるリンパ濾胞の腫大で放置でよいと扱われています。)などをずっとフォローしていきますと、後にアトピー性皮膚炎になったり、喘息になったり、しょっちゅう風邪や胃腸炎で来院することになっていくことに気がつくようになりました。
人工乳で育てている場合に、ミルクアレルギー用の加水分解乳や少し低分子化したペプチドミルクに変えてもらった赤ちゃんで皮膚の状態が軽快することが多いことに気がつきました。IgERAST(食物に対するⅠ型のアレルギーに関与する特異的抗体)を調べてミルクに対して陽性でなくてもです。
そのころは栄養と皮膚の問題に気がついていませんでしたので、Ⅰ型アレルギーと違う経路のアレルギーが関与しているのかもしれないと思っておりました。
ミルクを変えてもらうと、便に血液が混じってていたり、下痢ぎみ、便秘ぎみ、放屁が悪臭などの消化管症状も皮膚の軽快より先にか同時期に軽快しました。
しかし、いったん軽快したこの子たちがのちに、1歳ごろや2歳ごろと時期はいろいろですが、またかさついてきたり、関節の屈側に湿疹ができたり、皮膚症状がぶりかえしてくる場合もあるのでがっかりし、アレルギーだけでない別の問題を解決しなければならないと感じました。
整腸剤を飲んでもらっただけでも、少し軽快する子たちがたくさんいました。
腸内細菌が元気なほうが、湿疹が出にくいということが、実感できました。
無菌状態で生まれた赤ちゃんに、腸内細菌は生後の環境のなかで定着していきます。
このときに母親の乳首を吸い母の皮膚からもらったり、産道でもらったりすると考えられています。生後なんらかのトラブルで母親と離されて保育器内で育てられますと、咽頭粘膜や口腔粘膜の常在菌が異常であることが報告されています。当然腸内細菌の差もあるはずです。
当院で生まれた子、他院で生まれた子でも、頬から浸出液が出て痒みでぐずっている全身に湿疹が広がっているなどの重症のアトピー性皮膚炎は、人工乳で育てている子でなく、母乳哺育の子に多いことに気がつきました。母乳哺育はアレルギー予防になると言われていた時代もあったのですから、驚きました。母乳で育てるとアレルギーになりにくいと多くの育児本に載っていたこともあったと記憶しています。一生懸命母乳哺育をしているのに、顔全体が湿疹でおおわれ、赤ちゃんがかきむしって傷をつけています。痒みで夜泣きもあるし、日中もぐずるなど、お母さんたちは、苦労していました。あちこちにかかりステロイド軟こうが徐々に強いランクのものなっているにもかかわらず、状態は悪化するか、変わらないとの訴えで来院されます。皮膚科専門医のもとで、強めのステロイドでいったん皮膚炎を鎮静化させて徐々にランクの低いものに下げると再び湿疹が出てき てしまうというお話をされるお母さんが多いです。
当院で生まれた赤ちゃんたちの中にも、完全母乳哺育であるにもかかわらず、重度のアトピー性皮膚炎になった赤ちゃんが数人いました。ステロイド軟こうを一度も使わずに皮膚はつるつるの子に成長してくださっています。一部の人々ですが、ステロイドがアトピー性皮膚炎をつくるような論調の方が、医師や代替療法を推進する方にいるようですが、この私の経験から、そうではなく、やはりステロイド軟こうを塗らずとも、アトピーになるのであって、原因は体の中にあると考えるべきだと言えます。けれども、確かに同様の重症の状態でもステロイドを使わずに、アレルギーの面や栄養の面での改善を治療の中心において経過を診させていただいた赤ちゃんは、結局早めにつるつるの軟膏を必要としない皮膚になることを実感しています。乳児期早期にステロイドを塗っていて軽快していかないのでなんとかならないだろうかと言って来院される場合は、一度もステロイドを塗っていない赤ちゃんよりは治療に難渋しております。
この母乳で育てていて、重度のアトピー性皮膚炎になっている赤ちゃんは共通して、食物アレルギーが100%あります。
血液検査をしますと、多種抗原に対しRAST陽性が強く出ており、好酸球も20%(基準値は6%以下)越えがしばしば、総蛋白が5(基準値は6.7~7.5 乳児ではやや低め)前後で明らかな低蛋白が認められました。小腸粘膜でアレルギー炎症を起こして粘膜の傷がいっぱいでいわゆる蛋白漏出性胃腸症に近い状態なのだろうと理解しておりました。(のちに、蛋白合成の低下もあることに気がつきました。)
一般に産婦人科の分娩施設では、母乳哺育に熱心な施設でも、赤ちゃんの飲みが悪かったり、母親の体調や母乳の出方が悪いと、ミルクを足してしまいます。
腸内細菌の定着していないうち、腸管免疫の未熟なうち、腸の粘膜のバリアーが発達していないうちに、異種蛋白であるミルクを入れることが、アレルギー発症の促進因子になっているのではないかと思いました。自分の施設で生まれた赤ちゃんたちにはミルクを1滴も飲ませない完全母乳哺育を実施することにしました。分娩直後から母子同室とし赤ちゃんに乳首を吸わせる介助をまめに行いました。スタッフとともに、母乳哺育をサポ―トする方法を勉強し母親と赤ちゃんに密接にかかわりました。
ところが、完全母乳で育てた赤ちゃんにも重症のアトピー性皮膚炎の子が出てしまいました。お母さんが昔アトピー性皮膚炎であった方、上の子がアトピー性皮膚炎であった方などでした。これが、なぜだか、このときは説明がつけられず、やっぱり体質なのかなーとがっかりいたしました。印象的だった赤ちゃんは、生まれて1週間以内に便秘をして お腹がはってしまった子ですが、生後3ヶ月あたりより重症のアトピーになりました。
血液検査のさいアレルギー検査だけでなく、必ず血算(赤血球数 白血球数など)もやっておりましたが、貧血に気がつくこともあり、鉄シロップを処方しておりました。すると、鉄シロップを飲んでもらった子が、わりと湿疹が良くなる子がいることに気がつきました。(赤ちゃんでもヘモグロビンは11くらいはあった方が望ましいです。)
以前、アレルギーを専門としアトピー性皮膚炎にステロイドを使わないで治療をなさっている著名な小児科医師から、「アトピー性皮膚炎の子に脂肪肝が多い」という論文をいただいていましたが、これと関係しているのかもしれないと思いました。
体は37兆個の細胞でできています。その細胞を作る材料が足りなければ、障害が出てきてしまいます。皮膚や粘膜は細胞分裂の盛んな組織であり、常にたんぱくや亜鉛、鉄などのミネラルや、分化に必要なビタミンA、蛋白代謝にかかわるビタミンB群などが、健康な皮膚を作るためには供給されなければなりません。また、炎症の部位で増える活性酸素を消去するためにビタミンCやビタミンEなども必要です。
そして、消化 吸収に問題があると、必要な材料がとりこまれていないことになり、皮膚や粘膜の質が落ちてきます。結果として、アトピー性皮膚炎になったり、胃腸障害や気管支喘息になったりするということ、つまり材料不足により、異化>同化が疾患を作るというシンプルな考え方が基本となります。
医学部で習った生化学とは比べものにならない、臨床症状に関連付けられた、分子栄養学でした。目からうろこが落ちる思いでした。
生物は 毎日同化と異化を繰り返しています。新陳代謝のことです。これがスムーズに行われるには、蛋白が大人で1g/㎏/day必要です。成長期の子どもでは倍必要とされています。妊娠中、授乳期も多めに摂取しなくてはなりません。
食物アレルギーが原因かもしれないとのことで、厳しいたんぱく制限をされていることがありますが、しっかり必要なたんぱくが入っていなければ、いくらアレルギー対策をしても、皮膚に材料が供給されないことになり、皮膚の細胞の分裂と分化に支障をきたします。
たんぱく質はアミノ酸が何万個とつながってできている大分子です。
加水分解乳を与えて軽快したのは、ミルク蛋白があらかじめ低分子化されておりつながっているアミノ酸の数が少ないため、消化機能の弱い子(胃液の質が悪いとか胃酸の出方が悪いと考えられる)でも、1個のアミノ酸に変化させることができたためであると考えられます。1つ1つのアミノ酸に変化していれば、小腸粘膜で吸収されたとき異種蛋白と認識されません。つまりIgE抗体も産生されません。(ですから、IgE抗体が高いというのは、栄養障害による結果と見ることができます。アトピーの原因とみなすから混乱が生じるのではないのでしょうか?)
アミノ酸がたくさん血液中にとりこまれれば、それを材料にして細胞内でヒト蛋白を合成をします。材料である蛋白がが不足していれば健康な皮膚ができないということに、異論はないのではないでしょうか?
消化されなかった蛋白は大腸で細菌によって分解されて、有毒アミンを生じます。
これが悪臭便 放屁の原因です。
今まで、実際にアトピー性皮膚炎の子どもたちを診ていて気がついていたいろいろな付随症状の説明がつけられるようになってまいりました。
以前から、アトピー性皮膚炎の患者さんたちの亜鉛が少ないことは、ある皮膚科の医師からの情報で知っていました。実際測定してみると確かに60とかそれ以下の患者さんもいましたが、基準値に入っている人もいました。亜鉛不足の評価の方法はむずかしいです。
細胞内に存在している亜鉛についても評価する必要があるからですが、参考になることを分子整合栄養医学を実践している医師や分子栄養学者たちから学びました。
亜鉛は細胞分裂のさいにかかわってくる、DNAポリメラーゼやRNAポリメラーゼの補因子です。また活性酸素を消去するSODも亜鉛酵素です。そのほかにも亜鉛の関係する酵素が200以上あります。
亜鉛は主に十二指腸で吸収されますが、腸内環境が悪かったり、粘膜の状態に問題があって吸収力がないと不足してしまいます。吸収するには、エネルギーが必要で、腸の粘膜細胞がエネルギー(ATP)を産生できなければならず、そのためには、鉄やビタミンB群のような栄養素も必要です。
- 亜鉛の急性欠乏状態 -
皮膚症状が主体となることが多い。四肢末端、口周囲、外陰部、機械的刺激を受けやすい部位に、びらん、水ほう、膿か疹を形成する。脱毛もきたしやすい。

- 亜鉛の慢性欠乏状態 -
成長障害や性腺発育不全が前面に出ることが多い。皮膚は乾燥、きめが粗くなる。

細胞分裂が盛んな胎児期、新生児期には特に、亜鉛の必要量が高まっている。
胎生28~32週以降に亜鉛が母親より胎児に受け渡され貯蔵されるが、鉄の場合と異なり貯蔵量は出生後の成長発育に十分な量ではない。したがって出生後、口から入ったものから摂取する亜鉛に依存していることになる。
母乳中の亜鉛含量は初乳で最も高く、その後指数関数的に減少する。


おむつかぶれの治りにくい子はまさに亜鉛の急性欠乏状態と言えましょう。
口の周りがよだれでかぶれ易い子もアトピー性皮膚炎の乳児には多いです。
胎児期に母親からもらう亜鉛不足や、生後に母乳中に含まれる亜鉛が少ない場合 亜鉛不足をきたすはずです。
母乳で育てている場合、母親の検査をしますと亜鉛不足であることが多くあり母親に亜鉛を補給することで改善します。
吸収の問題では、ストレスがかかると、亜鉛の消費量が増えるのですが、ストレスで消化管の吸収力が低下しますと所要量を満たせなくなります。ストレスでアトピー性皮膚炎を悪化させる成人のかたも、このような栄養素の不足によると考えると対処の 方法も、見えてくるかと思います。
なお、ストレス下では、たんぱく質も消耗しますし、ストレス時に副腎から分泌される副腎皮質ホルモンの材料であるコレステロール ビタミンC 脳のエネルギー代謝が活発化することで需要の高まるビタミンB群なども消耗しがちです。

亜鉛は吸収の場である粘膜細胞内にまずメタロチオネインによって一時貯蔵されます。蓄積された余分な亜鉛は粘膜の剥離とともに便中に排泄され、過剰にならにように調節されています。
- 乳児期以外の時期における亜鉛の欠乏原因 -
・ 摂取不足や吸収障害
加工食品や精製穀類は亜鉛含量が低い。菜食主義者も亜鉛が不足しやすい。
食品添加物の中にも亜鉛とキレートを作り吸収を妨げるものがある。
肝疾患 膵疾患 炎症性腸疾患 (食物アレルギーは小腸粘膜が炎症の場であるが、炎症で粘膜細胞の機能が低下していると、亜鉛などのミネラルの吸収も低下する)
・ 尿中排泄量の増加
ネフローゼ症候群 糖尿病 溶血性貧血 蛋白と結合している亜鉛が失われる。
・ 医原性
中心静脈栄養 キレート剤 抗痙攣剤 利尿剤 透析 ステロイド剤
・ 需要の亢進
妊娠(多くに欠乏あり) 成長期(十分な吸収がなされていない場合)
やけどや外傷など異化亢進のとき。ストレス時。
*亜鉛は90μg/dl 以下であれば欠乏とみなしてよい。(日本の基準値は70~110)
*ステロイドホルモン療法を受けている患者では特に血清亜鉛(Zn)値が低下している。術後の創傷治癒の遅延がみられる。ステロイドホルモンはZnの排泄を促進する。Znを使って 調べた生体半減期は著しく短縮する。
*当院のスタッフが妊娠してしばらくしましたら顔や体に湿疹が出てきました。今まで湿疹の出たことのなかった女性です。亜鉛と鉄を補給しましたら2週間ほどで消失しました。つわりもなく快適なマタニティライフを過ごしました。元気な赤ちゃんが生まれ湿疹も出ません。
アトピー性皮膚炎で通院なさっている子どものお母さんの中に何人か妊娠中にアトピーを発症した女性がいます。胎児に亜鉛や鉄を供給しているうちにお母さん自身の亜鉛や鉄や蛋白が不足したものと思います。産後に頭髪の抜けるお母さんもよく経験していますし、産後手あれがひどくなって「オムツの洗濯で水仕事が増えたからだ」などと皮膚科で言われたりしますが、どちらも、栄養の欠損により、毛母細胞や皮膚の細胞の質が低下していると考えることはできないでしょうか?
日本の産婦人科医は、母親の貧血についての考え方が甘いと思っています。それをつよく感じるのは、お母様の母子手帳を見せていただくと、ヘモグロビンの記載がないケースもあり、また里帰りされて妊娠の後期で妊婦検診をする施設を変えたときに後期に里帰り先の施設において一度も血液検査を実施していないケースなどを経験するからです。母親が妊娠中のご自分のヘモグロビンを知らないでいることはしばしばです。
一般的には、妊娠中に2~3回採血しますが、最後にが28~32週あたりで、このときにヘモグロビンが11あれば、貧血については妊婦から訴えがあったり、検診上に問題のない限り再度チェックすることはありません。ヘモグロビンが11を切らない限り 鉄剤を出しません。米国ではルーチンに貧血の有無に限らず妊娠女性には鉄剤を処方するとのことです。
妊娠8ヶ月から10ヶ月にかけて、母体から胎児に鉄がプレゼントされます。母乳中には生後の発育に見合うだけの鉄は含まれておらず、そのために、胎児期に体内に貯蔵されて生まれてきます。ですが、母親が貧血だったり、貧血とは言われていなくても、潜在性鉄欠乏状態でありますと、胎児に十分に鉄を供給できません。また、胎盤機能不全があると、胎盤が鉄を十分に集めて胎児に送ることができません。
*上の子がアトピーだったお母さんが 二人目を妊娠して35週ころにふらふらするとおっしゃるので、採血してみたところヘモグロビンが8しかありませんでした。検診している産院では28週に検査して以来、貧血検査をしてもらっていないとのことでした。このままの貧血では分娩する元気も出ないし、赤ちゃんにも産道でのストレスの際、十分酸素が行かず、胎児の心拍低下などをきたし、帝王切開になってしまう可能性があります。また鉄が少ないと、ミオグロビンの鉄含量が少ないため、子宮の収縮も悪く、分娩遷延や産後の弛緩出血もありうることです。(日本の産科では、最近ハイリスク分娩が増えており、産科医が疲弊していますが、もし妊婦の栄養をしっかり改善させることができますと、分娩時のトラブルも減ると思われます。)とにかく、あと1ヶ月少し、鉄と亜鉛と蛋白を補給するよう指導しました。分娩は無事にトラブルなく経過し、赤ちゃんも元気に生まれましたが、やはり鉄補給の開始が遅かったのでしょう、生後2ヶ月あたりで顔に湿疹が出てまいりました。赤ちゃんは生後3ヶ月で体重が2倍になります。骨の成長にも鉄、亜鉛、蛋白などを使いますが、循環血液量もかなり増えますので、鉄をかなり消費します。この赤ちゃんは1歳ころに肺炎で入院されました。入院先の病院で鉄欠乏性貧血を指摘されています。
生後3~4ヶ月あたりで、顔に湿疹が出てくる赤ちゃんが多いのは、この鉄の枯渇と関係していると考えられないでしょうか?1ヶ月検診ですでに湿疹のある子もいます。こういう場合は鉄や亜鉛などの栄養素不足がかなりあると考えられます。
重症のアトピー乳児の母親の母子手帳を見せていただくと、貧血であった方が多いです。 産科の先生はヘモグロビンが11を切っていたときに1ヶ月くらい非ヘム鉄である鉄剤を1ヶ月くらい処方するだけで、その後貧血が改善しているかなどの再検査をしていないことが多いようです。1カ月飲めば大丈夫と決めているのでしょうか?
また、鉄剤をのむと、胃の不快感を訴える母親もいますが、このような場合は鉄剤静注をするか、軽い貧血の場合(ヘモグロビンが10台くらい)ですと、放置されます。体内に存在する鉄の3分の1は赤血球以外のところ肝臓や脾臓や粘膜などにある貯蔵鉄ですが、鉄が欠乏してくるとまずこちらから減っていき、とことん減ってしまうとヘモグロビンにも影響を出します。ですから、ヘモグロビンが少しでも低下している状態は貯蔵鉄がかなり減っている状態です。お母さんたちから妊娠中の体調なども含めてお話を聞きますと、明らかに栄養障害がある状態でも、体重制限のみが指導され、妊婦と胎児のために必要な蛋白やミネラルやビタミンの摂取を指導されている場合は少ないように感じます。
実は、ヘモグロビンのみで鉄について評価すると、潜在性鉄欠乏を見逃すことになり、母体の健康や、胎児、新生児の健康にいろいろと不利なことを作ってしまいます。フェリチンMCV(平均赤血球容積)などで、鉄欠乏を評価する必要性があるのですが、これが、ほとんど認知されていません。
妊娠中にヘモグロビンが11を切っていなくても、フェリチンが5以下という妊婦さんもたくさんいらっしゃいます。上の子がアトピーで2人目妊娠中に栄養のフォローをした方々で知りました。10人ほど、妊娠中に血液検査をしつつ栄養指導をして必要な栄養素を摂取していただいたお母さんがいらっしゃいますが、みなさん一様に妊娠中の体調が前回の妊娠中より良く、生まれた赤ちゃんも湿疹で苦労することもなく風邪もほとんどひかないし母乳もよく出て赤ちゃんもたっぷり飲んですやすや寝て育てやすいとおっしゃっています。
① 粘膜や皮膚の萎縮と機能の低下
口腔から大腸まで消化管全体にわたる粘膜、鼻粘膜の萎縮などの異常が現れる。
胃液分泌の低下、腸管での吸収障害、下痢や便秘がみられる。
便秘がひどい赤ちゃんの中に、ヘモグロビンが7や8の子がいました。最近は母乳哺育の赤ちゃんでも便秘の子が増えています。教科書的には母乳哺育児の便秘は、母乳不足を疑えとなっています。私は、体重増加良好でも便秘の母乳哺育児をいっぱい診てきました。母親自身が便秘であることが多いです。母親が鉄欠乏で赤ちゃんも鉄欠乏になってしまったとも、考えられます。鉄欠乏では、たんぱく、ビタミンも同時に欠乏していると考えられます。(消化能力 吸収能力低下により。)たんぱく欠乏では、消化管の壁である平滑筋の質もよくないはずで、便を送り出すための腸の蠕動運動もスムーズではないでしょう。
② さまざまな精神神経症状、易興奮性、集中力の低下や頭痛は、鉄欠乏の初期の非特異的症状。鉄は、
  DNAや神経伝達物質の合成分解に関与しており、 鉄欠乏によって、錐体外路系に変化を生じる。
思春期の女の子で、初潮を迎えてしばらくすると(数ヶ月から数年)、頭痛や朝の寝起きが悪いなどの愁訴が出てくる子がいます。これは、毎月失われる鉄に見合った鉄が吸収されていないからと思われます。この女の子たちは、幼少期に喘息やアトピーでかかっていた子たちです(同じ場所で開業して20年になりますので、患者さんのフォロー期間も長いですからカルテをめくればすぐにわかります)。消化管の吸収力の弱さがそのまま残っていますと、鉄などの吸収が不十分で、思春期には自律神経の不調が出てまいります。(⑪参照)一般的に起立性調節障害と診断されるケースで、鉄欠乏を疑ってみることも必要かと思います。
マタニティブルーといわれる産後のうつ状態も鉄や蛋白などの栄養障害と関係している可能性があると思います。母乳育児指導中に涙を流していた母親の子がのちにアトピーになったり、よく風邪をひく易感染の子になったりしています。
最近認知度が上がっている「あしむずむず症候群」も鉄欠乏によるケースもあり、鉄の補給で改善します。神経系への鉄の関与がわかりやすい疾患です。
③ 運動機能の障害
運動能力の低下、動悸、息切れ、疲労感、倦怠感、肩こり
④ 心負荷増大による心肥大
⑤ 月経異常が起こる。妊娠の維持や分娩に異常をきたす。
*月経が定期的にない中学生も多いです。頭痛や胃腸障害(下痢しやすいなど) も伴っていることが多いです。
⑥ 小児では特に知能の発達、身体発育の低下、情緒不安定、注意力散漫がみられる。
⑦ 風邪をひきやすいなど易感染性
(細胞性免疫能の低下、好中球貪食能の低下)
(心筋細胞のミトコンドリア肥大)
*いわゆるサイトカインストームである川崎病やウィルス関連血球貪食症候群 などにかかってしまった子どもたちのカルテを見直すと貧血や潜在性鉄欠乏であったケースがほとんどです。逆に私はふだんから、鉄欠乏があると知っている子どもは、感染症がこじれやすいと注意して診ることにしています。
⑧ 寒がり
(甲状腺ホルモンT4からT3への変換障害による)
⑨ フリーラジカル障害、過酸化脂質の増加
活性酸素消去酵素であるカタラーゼは含鉄酵素であり、活性が下がると、皮膚のしみが増えます。
*お産をしたあと、急に日焼けしやすくなったり、顔のしみが増える女性がいます。
⑩ 赤血球の変形能の低下
これは、赤血球膜を構成する脂肪酸の質や蛋白の質なども関係しますが、変形能力低下により狭い毛細血管を通過しにくくなり抹消循環が悪くなります。手足の冷えやしもやけなど。
*アトピー性皮膚炎の赤ちゃんの手足を触ると冷たい子が多いです。中には 紫色の手足の子がいます。
⑪ 自律神経失調症状
自律神経系の神経伝達物質の産生に含鉄酵素がかかわっており、貧血がなくても貯蔵鉄、組織鉄が不足している段階で、めまいや耳鳴りなどの症状がでます。
⑫ コラーゲン形成不全
コラーゲンを作るには、鉄、ビタミンC、蛋白が必要です。鉄不足のかたは しわが増えたり、骨の成長がうまくいかない可能性があります。胃下垂などの臓器を支える力の弱い方も、鉄や蛋白不足を疑ってみてもよいかと思います。
*乳児期からのアトピー性皮膚炎がいったん軽快していたのに、最近再発した13歳の男の子に 鉄、亜鉛、ビタミンB群蛋白を補給して栄養指導(お菓子、ジュースなどの糖分制限と、魚、肉 卵 牛乳 ヨーグルトなどの蛋白摂取を増やすことなど)をしたところ急に身長が伸びだしまし、同時に湿疹も軽快してまいりました。
身長が伸びるときは、鉄の需要量も増加しています。湿疹が悪化していたのも 思春期におけるスパートに見合う栄養素が吸収できていなかったのでしょう。
鉄欠乏の原因は下記のようにまとめられます。
① 食事中の鉄不足
不適切なダイエットなどをしますと必ず鉄不足を促進します。
女性は月経に見合う鉄を補給するためには、男性の2倍摂取する必要があるのに男性よりも肉や魚を多めに摂取しているでしょうか?
ヘリコバクターピロリ菌感染による萎縮胃、制酸剤による胃酸分泌低下、吸収不良になる消化管の機能低下(ストレスなどによる自律神経失調)
②吸収障害
a)乳幼児期 生後3ヶ月間で体重が2倍に増えます。循環血液量の増加もかなりありますし、骨の伸長のためにも鉄を使います。体重1kgの増加に30mgの鉄が必要です。母親から胎児期に移行しているはずの鉄が少ないと枯渇しだします。
生後1ヶ月で感冒にかかったりする赤ちゃんを診ると、まず鉄不足は間違いなくあります。のちに必ず、湿疹や喘息、易感染性で、何度も小児科受診を繰り返す子になります。
③鉄需要の増大
b)思春期~青年期 急激に体が成長する時期で、血液量も増えます。
月経の始まる女子ではさらに鉄を失うことになり鉄不足になりやすいと言えます。
④鉄の喪失
1、生理的な喪失
尿、便、汗、皮膚の細胞剥離、月経
*アトピー性皮膚炎で既に長くステロイド軟こうを長く塗布していた方がステロイドを離脱するときに、落屑がかなり出ますが、これは皮膚のターンオーバーが亢進していると思われます。鉄や蛋白などかなり失われているはずで、これを補わずに、離脱をしますと、鉄不足、蛋白不足などが起こりえると思います、離脱のあとにうつぎみになったりする方がいませんか?
2、病的な喪失
消化管出血 月経過多など
胃酸の量不足や胃液の質の低下により蛋白やミネラルの吸収が低下します。
鉄不足の腸粘膜は、ビタミンミネラルなどの取り込みに必要なエネルギーも十分産生できず、結果としてビタミンやミネラルの吸収が低下します。
結果として、糖質が入っていても、鉄、ビタミンB群不足では、エネルギー代謝が低下して、だぶついた脂肪が肝臓などに蓄積します。これがアトピー児で多い脂肪肝の原因かと思われます。アトピー性皮膚炎や喘息の子たちで、学童期に腹部が出てきたりして肥満傾向にある子がけっういます。アミノ酸が十分入らず、ビタミンB群不足では、蛋白合成が低下して新陳代謝が低下することになります。異化>同化という結果を生み出し、細胞の質が低下し小児ではアトピー性皮膚炎や喘息という疾患が、慢性疾患として出てしまうのでしょう。
大人では、この代謝障害の結果、糖尿病や動脈硬化などいわゆるメタボリックシンドロームなどとして、慢性の病態を生み出していると思われます。
大人のアトピー性皮膚炎もやはり異化>同化という状態から同化>異化という状態にしてさしあげることができたら改善していくことができるのではないでしょうか。
ただし、小児の細胞のほうが、細胞回転が速いぶんだけ、栄養素を入れた効果が早く現れやすいかと感じています。
c)妊娠期 鉄が優先的に胎児に運ばれるため貧血になりやすくなります。
授乳期も乳汁中に鉄が分泌されるので、鉄需要は高まっています。
妊娠時の貧血は、妊娠で循環血漿量が増加するのに対し、造血が追いつかないためであり、貯蔵鉄が十分あり、葉酸 ビタミンB12 蛋白などの栄養素が十分あれば妊娠中もヘモグロビンを13にキープすることができるそうです。このような栄養が十分の状態の妊婦は、妊娠中も体調が良く、つわりもなく、お産もスムーズで生まれた赤ちゃんも健康で湿疹もできません。
*一人めの子どもがアトピーで苦労なさったあるお母さんに相談を受けてピロリ菌の除菌療法を施した方がいらっしゃいます。除菌をしたあと妊娠なさいました。妊娠中も必要と思われる栄養素をしっかり飲んでもらいました。一人目のときにひどかったつわりが全くなかったそうです。二人目の赤ちゃんは生まれて1年たちますが、湿疹はまったくなく、風邪もひかないとのことです。上の子は、3歳になりますが、アトピーはなんとか軽快してきましたが、喘息ぎみになっており、あいかわらず小児科に時々来ています。お母さんは、「下の子はお兄ちゃんと違ってとても育てやすい。」とおっしゃっています。
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